「今の自分を変えてみたいか?」

灰色の隙間に射し込んだのは逢魔が時の空の色。
夕闇に立つ少女の発したその一言が、
俺の灰色に沈みこんだ日常をぶち壊した。

「思うがままに生き、今までを覆すような力を手にして、そこから這い出したいか?」

朱から紫、紫から闇。
夕陽の光も瞬く星の輝きも、
全てを呑み込み圧倒するグラデーションの中で俺のなにかが変わっていく。
俺の暗く沈んだモノトーンの日常が、
妖しい少女の笑みと共に鮮烈な色彩を帯びた世界へと変貌する。

力と共に漏れ出す、なんとも言えない禍々しさすら覚える笑い。
俺の中で抑え付けられていたものが解き放たれるその予感と、
この手に与えられた力の可能性が、久しく忘れていた夢と希望を思い出させる。
気力も湧かず、ただ流されていた俺の中に泡立つような活力が漲り、
足元にまとわりつく気怠さからその身体を押し上げる。
息苦しい泥沼の中から、ついに這い上がれる時が来た。

俺に与えられた時間は13日間。
――そして、俺に与えられたのは、人の心をねじ伏せる力。

「ふふっそうだ。せいぜい楽しむがよい。13日間をな。」

……楽しめ、だって? ああ、楽しんでやる。

俺のことを見下してくるあいつら。
俺の周りに付きまとってくるわずらわしいあいつら。
俺の視界の中で嘲笑っているあいつら……。
そんな奴等に抑え付けられ、押し潰され、嘲笑われていた日々から、
俺はこの力で解放される。

……そうだ、今度は俺の番だ。

今までの分を、取り戻してやる。
抑え付け、押し潰し、嘲笑ってやる。
俺が満たされなかった分を、この13日間ですべて取り戻す。

――満たされるのなら、取り戻せるのなら、この俺に14日目の朝は必要ない。